ジョイス散歩を、専門家と。ブルームスデー2018。

ブルームスデー前日の6月15日、トリエステ大学でジョイスの研究をしているレンツォ・クリヴェッリ博士(Renzo S. Crivelli)の案内でイタリア語でのガイドツアーがあり、忙しい合間を縫って、妻と参加してきました。料金も予約も無し、定時に期間限定で設置された古いバスを再利用した展示スペース前に集合というオープンな企画。運河の脇のポンテロッソ広場です。
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実は妻は大学時代に「彼の講義はともかくツマラナイ」というネガティブな評判を聞いていたのですが、なんのなんの、お茶目でジョーク好きなひょうきんなおじいちゃんでした。拡声器がイマイチ使いこなせておらず、時々声が聞こえにくかったのはご愛敬。笑。僕が入手した今や絶版の本「ジェームズ・ジョイスのトリエステ巡り」の筆者でもあります。
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この日のチェックポイントはスタートのポンテロッソ広場を含めて4か所。ポンテロッソ広場には、ジョイスがトリエステで初めて本格的に住みだしたアパートがあります(1905年3月~4月)。こちらの写真左手の優雅な建物の4階(こちらで言う3階)で、ポンテロッソ広場に立つ市場の様子が彼のマイナー作品「ジャコモ・ジョイス」に見て取れるということです。現在はB&Bになっていますが、同じ階かどうかは未確認です。
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この広場の橋に立つジョイスの銅像は、このアパートを見上げるように設置されたという小ネタを初めて知りました。こちらのアパートの眺めはジョイスとノラ夫妻の気に入っていたそうですが、ノラが妊婦であることに気づいた大家さんに「赤ん坊が生まれてうるさくなるのが嫌だ」という酷い理由で追い出されてしまいます。次に住んだのがベルリッツ・スクールの隣の建物の3階(サン・ニコロ通り30番、ベルリッツは32番)で、こちらの大家カナルット女史(signora Canarutto)は妊婦のノラに優しかったそうです。ここは1905年5月1日から1906年2月24日まで。その後はローマへ移住したそうで。写真はみんなでゾロゾロ移動中の図。
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前にも書きましたが、ベルリッツ・スクール跡地は現在ZARAという大手服飾チェーンの店になっています。この家の地上階が、まさにサバの書店。
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この家に住んでいるとき、長男ジョルジョが生まれました。ただしノラは妊娠のストレスとトリエステの気風に馴染めず常に不機嫌、ジョイスはあまり家に寄り付かずカフェや居酒屋や旧市街の歓楽街をフラフラしていたという、夫婦にとってはあまり良い時期では無かったようです。

さてここでベルリッツとの関係に関する講義を聞いた後は、ジョイスも通っていたというカフェ「Stella Polare」へ。運河の端っこから見て正面にある、聖アントニオ教会の前です。
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こちらでは、後年のノラの浮気(おそらく、証拠は無し)のゴシップの話をしてくれました。お相手はトリエステの地元紙で、ジョイスも何度か寄稿した新聞「ピッコロ」の重役ロベルト・プレツィオージ氏(Roberto Preziosi)。既婚で子供もいるのにかなりハンサムで、プレイボーイだったそうです。おそらくこのカフェ周辺で、ジェームスとロベルトの喧嘩があったという証言や、ロベルトがジェームスのいない時間にもジョイス夫妻の家を訪れていたという証言もあるそうで。面白いのが作中にもこのエピソードの影が認められることで、ユリシーズにもイタリア語の特徴の例として「Roberto ruba roba sua(ロベルトは彼の物を盗む)」というフレーズがあったり、トリエステ時代に着手していた戯曲「Exiles(追放者たち)」が正に夫婦と男の三角関係の話だったりと、ジョイスの人間臭さが垣間見えます。ま、自分は歓楽街通いしてたんだからお互いさま、かな?
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最後は、第一次大戦前後(1913年初頭から1915年5月、大戦後1919~1920年7月)に教職に就いた「商業専門学校」の前でした。こちらでは主にトリエステでは才能を開花しきれないという自覚があったジョイスのパリへの出発のエピソードを話してくださいました。この学校はイタリア語系の貴族が開校したのですが、学生の中にはスラブ語系の人もおり、民族意識の高まった第一次大戦前にはかなりの緊張が生まれていたというのを、ジョイス自身が書き残した書類(1914年)が見つかったそうです。こうした緊張や大戦後のトリエステの没落を目の当たりにしたジョイスは、ついに居心地の良いトリエステを去る決心をしたんですね。
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ここ数日ようやく時間ができたので前述の本を読みだしていますが、22、3歳でトリエステにたどり着いたというジョイスがちょっと自分と重なり、更に興味が湧いてきています。またジョイス関係の記事も更新していきますので、どうぞお楽しみに!

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by mitsugu-ts | 2018-06-21 17:31 | 続・トリエステの歩き方 | Comments(0)

イタリアの東北、風の街トリエステで生活するコントラバス弾きmitsuguのブログ。トリエステ情報や音楽、コントラバスに関する考えをまとめています。ときどき近況も。どうぞよろしく!


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