ボッテジーニの「メンデルスゾーン風」に関する(これまたマニアックな)考察。

こちらでは9月からが新学期ですので、思い立って新曲を練習し出すことに決めました。それが、ボッテジーニの「グランデ・アレグロ・ディ・コンチェルト、メンデルスゾーン風」です。メンデルスゾーンの有名なバイオリン協奏曲の第一楽章の構造を模倣したこちらの作品、ドイツっぽいしっかりした構造が性に合うのか、日本人の奏者や学生の間でもボッテジーニ作品の定番だと聞いたことがありますが、どうなんでしょう?コントラバス奏者の間では、一年前くらいにベルリンフィルの主席McDonald氏がこの曲のソロ演奏をユーチューブにアップし、話題になりました。
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この曲の手稿も持っているのですが、全て実音表記(ソロチューニングで弾いた結果の音)のフルスコアなので、演奏するにはパート譜が要ります。真っ先に見つけたのが、イタリアのZanibonという小さな出版社が出しているものでしたが、見てみるとかなり問題があるものでした。というのも、展開部などがそこかしこで何の断りもなく、ばっさりカットされているのです。おい、イタリア人よ・・・。

さらに探すと、Doblinger(Rudolf Malaric編)とDeutscher Verlag fur Musik(Klaus Trumpf編)を発見。こちらはカット無しであることを確認してから、手稿との比較に入りました。この曲の手稿は、以下の2種類です。調が違うのはもう何度も書いている、一音上げか一音半上げのソロチューニングの違いです。ここでは、タイトルにご注意ください。

1. Grande Allegro di Concerto (CbとPf、ホ短調)
2. Allegro di Concerto (CbとPf、ヘ短調)

そうなんです、有名な「メンデルスゾーン風」というのは、書いていないのです。実は他にも弦楽伴奏の各楽器のパート譜が残っており、そのチェロパートに「Allegro di Concerto alla Mendelssohn」と書かれているだけなんだそうです。さすがにマニアの僕も、そのバラバラのパート譜までは撮影してきませんでした。笑。またパルマに行かなくっちゃ!

さて出版されているものと見比べると、Doblingerは上記の1の手稿、Trumpf編は上記の2の手稿を基にしていることが分かりました。主な違いは第2主題(長調の主題)の導入部で、1の手稿の方はコントラバスのロングトーンに重ねる形でピアノが主題を提示し、更にその後コントラバスが主題を最初から歌い始めますが、2の手稿の方は伴奏がさらっと主題を導入し、コントラバスが軽快に割り込んできます。有名な録音で言うと、Ibragimovや先述のMcDonald、Ovdiu BadilaはTrumpf版(手稿2)、ボッテジーニ研究家でもあるThomas Martinは手稿1を録音していることが分かります。
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僕はとりあえずTrumpf版を採用し、手稿と違いがあるところを赤ペンで直していきました。結果、Trumpf氏の編集が入っている箇所がそこそこ多いのが分かったので、そのうち暇な時に、メソッドエレジーのようにまた自分で手稿から書き移そうと思います。

細かいスラーやスタッカートやアクセントの違いを言い出すとキリが無いので、大問題(マニアにとっては)だけを発表します!上の写真にあるのは、曲の終盤なのですが、トリルの後の高いE(印刷された音)は、手稿によればG(赤ペンで記入)であるべきなんです!Eなら頑張って1オクターブの跳躍をして押弦しなくちゃいけませんが、Gなら無理なくハーモニクスで取れるんです!曲の前半の似たような箇所と同じように!さすがボッテジーニ!コントラバスを知り尽くしてるぜ!間違った版で録音した上記の御三方、ザマァミロ!ちゃんと手稿を勉強してから録音しやがれ!(・・・くれぐれも冗談です、特にイブラギモフ氏の録音は僕の一番のお気に入りで、尊敬してやみません。)ちなみに、Doblinger版は、他に色々怪しい箇所はありますが、ここは正しくGになっています。

まぁ、音楽的な理由でTrumpfさんが変えた可能性もありますが、オクターブ移調でなく音自体が変わっているのは全曲を通じてここだけですし、手稿でもここはちょっとトリッキーな表記がされているので、個人的には単なるミスだと推測します。

さて、重箱の隅をつついて熱くなってしまいましたが、やっぱり僕もプレーヤーなので、演奏自体に関係があるところが何より気になるのです。そろそろ練習に戻るので、曲自体の背景や分析などについてはまた次の記事で・・・。
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Commented by フィガロの件のSです。 at 2017-09-09 00:06 x
フィガロ序曲の件お騒がせしました。
Grande Allegro di Concerto と同様に、Capriccio di Bravuraも、『Concerto di bravura』や『Concerto Ⅲ』という具合に異なるタイトル表記があります。協奏曲1番も『Gran Concerto』と『Concerto Ⅰ』という具合に異表記がされている出版譜もあります。
あろうことかT.マーティンはIMCの自身の校訂譜では『ALLEGRETTO CAPRICCIO "Caprice a la Chopin"』としているのに、ナクソスのCDでは『Cappriccio a la Chopin』と表記しています。
タイトル表記の問題一つとっても、事情とか結構複雑なものでもあったのでしょうか?それとも『わかれば良い』位のノリだったのか謎が多いです。
Commented by mitsugu-ts at 2017-09-09 17:09
Sさん
仰る通り、ボッテジーニ作品のタイトル付けも、色々な問題があるようですね。ただ、この記事のメンデルスゾーン風のように、二種の直筆譜に対し同じ曲でも微妙に違うタイトルが付けられていることもあり、直筆譜自体が系統だった整理をされていないこともあり、難しいところです。
CDや楽譜の曲名については、更に翻訳や印刷スペースの問題も加わるかと思います。マーティン氏も、そこまではコントロールしきれなかったんじゃないか、と弁護したくなります。
by mitsugu-ts | 2017-09-07 23:27 | ジョヴァンニ・ボッテジーニ研究 | Comments(2)

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