ボッテジーニの教則本、オリジナルの書き起こしを行いました。

ボッテジーニというとコントラバスのヴィルトゥオーゾ(超絶技巧奏者)というイメージが一般的かと思います。現に、たくさんの曲をコントラバスのために書き残してくれていて、そのほとんどは派手でハイポジを多用するもので、まぁ簡単だとは言えません。

今日はそんな彼が書いた教則本について。ボッテジーニは正式にはどこの学校でもコントラバスを教えてはいませんでした。亡くなる直前にパルマの音楽院の校長になりましたが、それ以前は世界中で指揮者として、またオペラ作曲家として活躍していたので、後進の指導に当てる時間なんて無かったというのが主な理由でしょう。また折に触れて、「ただのコントラバス奏者として後世に名を残したくない」といった意味の発言をしていたそうで、コントラバスという楽器に対する感情も入り組んだものだったようです。

そんな彼が、なぜコントラバスの教則本を書いたのか?直接的な原因は、どうやら友人でもあった大手出版社「リコルディ」の社長ティート・リコルディ氏の依頼だったようです。リコルディ氏にすれば、コントラバス界の大スターであるボッテジーニが教則本を書けば、大ヒット間違いなしと踏んだのでしょう。忙しさのためか、はたまたあんまり乗り気じゃ無かったのか、教則本の執筆は遅れに遅れ、1864年には間違いなく執筆依頼は受けていたものの、リコルディへの受け渡しはようやく1870年。しかもその数年前にフランスの出版社Escudierに持ち込み、一部分を出版してしまうという、執筆依頼者からするとかなりの問題児だったようです、ボッテジーニ。笑。

ようやく出版の日の目を見たこの教則本ですが、リコルディが狙った大ヒットは実現しませんでした。海外はおろか、イタリア本国ですら音楽院のプログラムに含まれることは稀で、現在も出版はされているものの、あんまり高い評価は受けていないのが現状でしょう。
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さて、ここからが本題です。現在流通しているボッテジーニの教則本は2種類です。一つは本家イタリアのリコルディ版、もう一つはボッテジーニ作品の出版に強いイギリスのヨーク版です。しかし僕は、イタリアに住んでいる強みというものか、現在流通していないこの教則本の「古いリコルディ版(1900年代前半?)」を閲覧しコピーする機会を得たのです。

その古い版を分析した結果、現在流通している二つの版とも大きく内容が違っていることを発見しました。最大の違いは、現行の版は両方とも「3弦コントラバス用から4弦コントラバス用へ編集されている」ことです。ボッテジーニが3弦コントラバスを愛していたことは良く知られていますし、当然この教則本も3弦用に書かれました。それを、編集者の都合でオクターブ移調を施すなどして、4弦用に編纂してしまったのです。

特にイタロ・カインミというイタリアのコントラバス奏者の編による現行のリコルディ版には、この古い版には存在しない練習曲が追加されていたり、これを「ボッテジーニ作のメトード」として流通させるのはどうか、と思われる程の変更ぶりです。

その後シルヴィア・マッテイという音楽学者の論文(イタリア語のみ)を読み、この古い版がリコルディ社が保存しているボッテジーニの手稿の内容と合致するであろうことを知りました。また、自分で実際にボッテジーニの手稿を閲覧し、手稿が残っている部分に関しては、内容が合致することを確認しました。

この古い版の存在はイタリアのコントラバス奏者でも知らない人が多く、現行の版をみて「ボッテジーニの教則本?ダメだよ、あんなもん」と言っているわけで、それは非常に残念だと思うのです。
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僕はこの古い版の練習曲を全曲弾いてみましたが、特に第一部、ハイポジを用いないで弾ける練習曲は曲想や構成がはっきりしており、愛らしく、時に美しいと言って良いほどの名作ぞろいだと思いました。一曲ずつが短く、同じ調ごとにまとまっており、大きな音程のジャンプが無いので歌うのにも良いです。また、これこそがボッテジーニが狙ったことだったのですが、音が非常に低い第4弦を使わないことで、音程が聞き取りやすい範囲での作品になっており、特に初心者の方の耳に正しい音程を覚えさせるのに有効だと思われます。また第二部では技巧的な部分が増えてはいるものの十分に音楽的で、特にナチュラル・ハーモニクスのみを用いた練習曲はボッテジーニ演奏の一つの神髄と言えるでしょう。

しかし前述のとおり、イタリア国内においてさえボッテジーニの教則本は無視されつつあります。僕の先生ステファノ・シャシャはこだわってこの古い版を用いて初心者を教えていますが、他に彼のようにこの教則本をメインに使っている先生を僕は知りません。

確かに、「ミラノ流」の運指法(半音も全音も1-4の指使い)や3弦コントラバス専門の構成など、時代遅れと言われても仕方が無い面をこの旧版の教則本は持っています。ですがそれ以前に、その歴史的価値と練習曲の突出した音楽性によって、ボッテジーニの作品としてもっと評価されても良いのではないかと思い、オリジナルの練習曲を読みやすく書き起こす作業を行いました。

楽譜として純粋に評価するため、運指番号や運弓は取り払い、現代の奏者がそれぞれの奏法を適用できるようにしました。第一部は低音域のみ、ソルフェージュや歌い方など、初心者の方やアマチュアの方でも楽しみながら「コントラバスを通じて音楽性を学べる」練習曲集だと思います。第二部はイタリアの伝統に従った実音表記で楽器の音域すべてをカバーする曲たちで、より技巧的なパッセージが多くなり、音大生の方などの格好の教材に成りうると思います。

現在のところはトリエステの音楽院を除き、個人で使用するためのコピーのみを作成しています。興味がおありの方は、この記事のコメント欄に非公開コメントにて、メールアドレスをお知らせくだされば、サンプルと詳細の説明をお送りします。ボッテジーニの業績が正しく知られ、評価されることを願っています!

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Commented at 2017-04-15 16:40 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by mitsugu-ts at 2017-04-15 23:32
鍵コメントのT様、ありがとうございます。別途メールにてお返事差し上げました!
Commented at 2017-07-19 22:53 x
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Commented by mitsugu-ts at 2017-07-20 07:33
>鍵コメントのAさま、ご連絡ありがとうございます。別途メールにてお返事さしあげます。
Commented at 2018-02-21 19:21 x
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Commented by mitsugu-ts at 2018-02-21 23:02
> 鍵コメントのT様
コメントありがとうございます。別途メールにてお返事差し上げました。
Commented at 2018-05-06 01:07 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by mitsugu-ts at 2018-05-06 16:22
> 鍵コメントのY様、別途メールにてお返事差し上げます。
Commented at 2018-09-10 06:39 x
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Commented by mitsugu-ts at 2018-09-11 04:16
>鍵コメントのK様、別途メールにてお返事差し上げます。
by mitsugu-ts | 2017-04-02 17:55 | ジョヴァンニ・ボッテジーニ研究 | Comments(10)

イタリアの東北、風の街トリエステで生活するコントラバス弾きmitsuguのブログ。トリエステ情報や音楽、コントラバスに関する考えをまとめています。ときどき近況も。どうぞよろしく!


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